従業員へ賞与(ボーナス)を支給した際、「賞与支払届」の提出は企業の義務です。年に数回と限られた時期にしか発生しないため、担当者の方もつい忘れがちな手続きかもしれません。しかし、この手続きは従業員の将来の年金受給額にも影響する重要なものであり、適切な対応が求められます。
今回は、賞与支払届の基本的な内容から、具体的な手続きの流れ、そして見落としがちな注意点までをわかりやすく解説します。
賞与支払届とは?
賞与支払届は、賞与の支給額を社会保険料の計算・納付のために届け出る書類です。賞与からも月々の給与と同様に社会保険料が控除され、その金額は賞与額に応じて決まるため、この届出が必要となります。
提出先 | 事務所所在地を管轄する事務センター、年金事務所 |
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提出期限 | 賞与支払日から5日以内 |
提出方法 | 電子申請、電子媒体(CD・DVD)、郵送、窓口持参 |
賞与支払届の手続きステップ
①届出書類の準備
賞与支払届は、日本年金機構または加入している健康保険組合から、賞与支払予定月の前月に各企業へ送付されます(事前に賞与支払予定月を登録している場合)。書類が届いたら、被保険者番号、氏名、生年月日、種別などの印字内容に誤りがないかを確認しましょう。印字されていない従業員がいる場合は、手書きなどで追加が必要です。
給与ソフトで賞与支払届を作成することもできますが、加入している健康保険組合によってはフォーマットが指定されている場合があるため、事前に確認することをおすすめします。
②保険料の算出
賞与にかかる社会保険料は、以下の計算式で算出します。
- 健康保険料 = 標準賞与額 × 健康保険の保険料率 ÷ 2
- 厚生年金保険料 = 標準賞与額 × 厚生年金保険の保険料率 ÷ 2
標準賞与額とは、税引前の賞与総支給額から1,000円未満を切り捨てた金額です。算出した保険料は、企業と従業員で折半して負担します。
【注意点】標準賞与額には上限があります 健康保険は年間累計額(4月1日から翌年3月31日まで)が573万円、厚生年金保険は1か月あたり150万円が上限です。これを超える場合は、上限額で計算されます。
雇用保険料の計算式は以下の通りです。
- 雇用保険料 = 賞与支給額 × 雇用保険料率(労働者負担)
雇用保険料率は事業の種類によって異なり、労働者負担分と会社負担分があります。例えば、一般の事業で2023年4月1日~2024年3月31日の雇用保険料率は、労働者負担が0.6%、会社負担が0.95%となっています。雇用保険料の計算方法の詳細については、こちらをご参照ください。
③賞与支払届の作成
賞与支払届に印字されている従業員で、賞与の支払いがない場合は記入の必要はありません。
- 2か所以上の事業所で社会保険に加入している場合は、備考欄「2. 二以上勤務」に○をつけましょう。
- 同一月内に複数回の賞与を支給した場合は、備考欄「3. 同一月内の賞与合算」に○をつけ、初回の支払日を記入してください。
【ポイント】賞与不支給報告書も忘れずに
賞与の支払い予定月に賞与を支給しなかった場合は、「賞与不支給報告書」を賞与支払届に代わって提出する必要があります。
④賞与支払届の提出
すべての書類が整ったら、賞与支給日より5日以内に管轄の事務センターまたは年金事務所へ提出します。健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合へも提出が必要です。提出方法は、電子申請、電子媒体(CD・DVD)、郵送、窓口持参から選択できます。
⑤保険料の納付
賞与支払届の提出後、「標準賞与額決定通知書」と「保険料納入告知額・領収済額通知書」が発送されます。「標準賞与額決定通知書」は会社で保管し、決定した標準賞与額は必ず従業員へ通知しましょう。
賞与に対する保険料は、「保険料納入告知額・領収済額通知書」に従って納付します。納付期限は、通知書が届いた月の末日までとなっているため、期限を過ぎないように注意が必要です。
賞与支払届の手続きにおける注意点
①中途入社した従業員について
同一年度内に被保険者資格の取得・喪失があった場合は、同一の保険者である期間に支払われた標準賞与額を累計します。同一年度内に複数の被保険者期間がない場合、入社日以降に支払った賞与のみが賞与支払届の対象となります。
②退職した従業員について
賞与支払月に退職した場合、賞与にかかる社会保険料は徴収されません。しかし、標準賞与額の決定を行う必要があるため、退職者に賞与を支払ったのであれば、賞与支払届の提出は必要です。なお、賞与支払月の月末に退職した場合、資格喪失日は翌月1日で保険料の対象となるため注意しましょう。
③休業中の従業員について
産前・産後休業中や育児休業中の保険料免除期間に支払われた賞与も、標準賞与額として決定され、年度の累計額に含められます。該当する従業員に賞与を支給する場合は、社会保険料の徴収がなくても賞与支払届の提出が必要です。
④賞与支払届の提出を忘れた場合について
賞与支払届の提出を忘れると、登録した賞与支払予定月の翌々月に催告状が送付されます。催告状を受け取った場合は、速やかに届出と保険料の納付を行いましょう。提出が遅れると、従業員の年金受給額に影響が出るだけでなく、企業側も余計な手間や確認作業が発生してしまいます。
まとめ
賞与支払届によって決定される標準賞与額は、将来の年金受給額に直結する重要な手続きです。特に夏季賞与は、7月の算定基礎届の手続きと時期が重なることも多く、担当者がうっかり忘れがちな手続きの一つでもあります。
賞与を支給する際は、「支給日から5日以内」という提出期限を厳守できるよう、あらかじめスケジュールを決めておくことが肝心です。
このような社会保険手続きは、専門知識が必要な上に、一つでも漏れがあると従業員への影響や企業側の手間が増大してしまいます。もし、貴社で給与計算や社会保険手続きに関するご担当者様が多忙を極めている、あるいは正確な処理に不安を感じているようでしたら、弊社の給与計算アウトソーシングをご検討ください。専門家が貴社の手続きを正確かつスムーズにサポートし、本業への集中を支援いたします。